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伝統産業と融合した堺の手すき昆布

2024.01.05

大阪の食を語る上で外せない昆布は、堺にあった包丁産業と結びつき、他ではまねできないほど繊細な手すき昆布を生み出しました。今でも手すきを続けるおぼろ昆布やとろろ昆布は大阪の食文化を支えています。

大阪のこぶうどんやバッテラ(大阪寿司)、そして出汁文化を支えてきた昆布。江戸時代に堺へ荷揚げされるようになってから、堺と昆布は切り離して語れないほど、食文化に影響を与えてきました。中でも、手すき昆布の技術は優れた包丁との出会いで研ぎ澄まされていきます。

極上の刃物あってこその産物
江戸時代、北前船の航路がひらかれ、北海道の産物が日本海を通って敦賀・下関を経由し、堺港へ荷揚げされるようになり、大量の昆布が堺へとやってきました。この航路は「コンブロード」と呼ばれるほど、昆布の普及に貢献した航路でしたが、堺に届くまでの経由地で、その土地ならではの産業や文化と融合し、それぞれに違った加工がされ根付いていきました。とりわけ堺で多く作られたのは、板状の昆布を刃物ですく「おぼろ昆布」や「とろろ昆布」でした。
堺には、優れた刃物を作る技術があり、その刃物を使って昆布を加工することで、とろけるような食感の昆布が生み出されたのです。大正から昭和の初期頃に、堺では昆布を扱う業者が急激に増え、最盛期には150ほどの昆布関連業者が存在したといわれています。旧市街地の古地図をひも解くと、「昆布」の文字が散見されます。

トン単位で仕入れる、乾燥昆布

とろける食感の秘密は、「すき」より「研ぎ」にあり
堺で手すきにこだわって昆布の加工を行う郷田商店は、大阪市内で昆布職人をしていた初代社長が戦後に独立して堺で創業。現社長の郷田光伸さんは3代目です。堺で数軒ほどになった昆布加工会社のひとつとして、手すきにこだわった昆布を作り続けています。
仕入れるのは、北海道・道南の白口浜でとれた真(ま)昆布(こんぶ)。コク深い旨味がある、最上級の昆布です。

この昆布を、5分~10分酢に漬け、ひと晩なじませます。使う醸造酢は創業時からの継ぎ足し。これまでに漬けてきた昆布の旨みがギュと詰まり、ここでしか出せない味わいに。“味付け”といえる工程はこれだけ。酢につけるからといって、酢こんぶのように酸味が強くなるわけではなく、素材のおいしさを存分に引き出すことができるのです。

ひと晩ねかせた後(左)、専用の機械(右)で表面の汚れを落とします

味付けと同時に、柔らかくなった昆布は加工がしやすくなります。柔らかくなった昆布は、職人さんたちの手にかかると、あっという間に帯状の薄い昆布に。熟練の職人さんにもなると、1日で10㎏ものおぼろ昆布を作るとか。

すきたてのおぼろ昆布。透けて見えるほど薄い

足で昆布の端をおさえ、包丁で1枚1枚丁寧にすいていきます。すく技術もさることながら、ここで使う包丁にこそ、とろけるような食感の秘密がありました。

慣れた手つきで、どんどんすいていく職人さん

鋭い切れ味でありながら、昆布に吸いつくようなしなやかさを併せ持った堺の包丁

「すく技術は数年で習得できるけど、きれいにすくための包丁研ぎは一生の課題」というのは、職人暦16年になる職人さん。包丁を研ぐことも大切な仕事のひとつで、1日に何度も包丁を替え、刃先を曲げる特殊な加工(アキタ)を施します。

おぼろ昆布ととろろ昆布、どう違う?
昆布の表面を削ってできる「おぼろ昆布」と「とろろ昆布」。表面を削るという点では同じですが、帯状に大きく削るのがおぼろ昆布。一方のとろろ昆布は、糸状に細かく削ります。

表面からとれる「黒とろろ」

いずれも、同じようにアキタを入れた包丁を使いますが、とろろ昆布には刃先に細かい目打ちをした包丁を使います。

とろろ昆布に使う包丁。刃先を拡大すると、のこぎりのようにギザギザしているのが分かります

バッテラ用に切りそろえられた白板昆布(左)。サイズはオーダーメイドのため、卸先のサイズに合わせた木型が並んでいます(右)

さらに、おぼろ昆布を作って残った昆布からは、白板昆布が生み出されます。この、四角く切りそろえられた薄い昆布、どこかで見たことはありませんか?
そう、大阪名物のひとつ、「バッテラ」のサバを覆うようにのせられている、半透明でシート状の昆布がこれなのです。大阪で寿司といえば、にぎりよりも箱寿司がポピュラーで、芝居の見物や手土産にと重宝されていました。箱寿司のことを大阪寿司と呼ぶこともあり、大阪の食文化を支えてきたもののひとつです。

バッテラにのせられた白板昆布は、サバの乾燥を防ぐフタのような役割をするほか、時間を置くほどに昆布の旨みが浸透し、まろやかな味わいに。持ち帰り寿司の多かった大阪で、おいしいものをさらにおいしくして届けたいという思いが白板昆布へとつながり、大阪の人のおなかを満たしてきました。

大阪の鯖寿司といえばバッテラ。持ち帰る間に味がこなれてきます

株式会社 郷田田商店
郷田商店では、卸売りだけでなく、さまざまな昆布加工品を小売りするほか、予約制での見学も受け付けています。
堺市堺区市之町東5丁1-23
https://www.godashoten.com/

(左)郷田商店公式Facebookより引用