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伝統文化が紡ぐおもてなしの心

2023.12.28

海外との貿易拠点として栄え、商いの中心地でもあった堺では、商人たちが茶を点ててお客にふるまう「茶の湯」が広まりました。時代とともにお茶と一緒にお菓子を出す習慣がおもてなしとして根付き、今日まで受け継がれています。

喫茶文化が華開いたまち、堺。
堺の地に生まれた千利休の功績は大きなものですが、それを後押しするように存在したのは、商人たちの「お茶を飲む」という文化でした。喫茶文化があったからこそ茶の湯が生まれ、おもてなしの心から、場を華やかにするための和菓子が発展していきました。

お茶は1200年にわたって飲まれ続けている最高の飲料
心を解放して一息つきたいとき、場を和ませたいとき、食事のときなど、お茶を飲む習慣は私たちのくらしの中に当たり前にあり、生活の一部となっていますが、このように定着するには長い年月を要しました。 

日本で1200年頃の当時、「茶は養生の仙薬なり」と、『喫茶養生記』の中で栄西が記したように、薬のように飲まれていました。そして、茶を楽しむための道具や茶室は高価なもので、一部の上流階級の人たちの嗜みでしかありませんでした。煌びやかな道具を見せ合って自慢した華やかな茶会から一転、室町時代になると茶会に禅宗の要素が取り入れられた「侘び茶」が村田珠光によって提唱され、それまでのお茶の飲み方に大きなイノベーションがおこりました。この頃から堺の商人たちの間に「お茶を飲む」という文化が広がり始めます。そこへ登場したのが千利休。堺の裕福な町衆に生まれ、茶の湯に親しみ、侘び茶のスタイルを大成させました。

堺市博物館蔵

これまでの、派手で豪華な茶器をきわめて質素なものにかえ、無駄なものをとことん省いた「侘び」の精神を取り入れたのが侘び茶で、自由な形で楽しめたことから、庶民の間にも広がり、今でも大切にされている文化のひとつです。

つぼ市製茶本舗公式サイトより引用


お茶はおもてなしのこころ

千利休が説いた、茶の湯の意義とは「お茶を主客ともに楽しみ心を通い合わせること」であり、おもてなしの心が大切であるとしています。その日の天気や気温、どんな状況で相手が訪ねて来たのか、五感を研ぎ澄ませて相手のことを感じ取り、おもてなしをすることが茶の湯の神髄であると説きます。そんな精神こそが、大阪人のおもてなしの心を育てたのかもしれません。

堺で1850年に茶問屋を創業したつぼ市製茶本舗は、お茶一筋にそのおいしさを伝えるだけでなく、人と人をつなぐものとしてのお茶を大切にしています。「生活シーンやニーズによってお茶を使い分けることが大切」というのは5代目の谷本順一さん。大切なお客さまには、自ら湯を沸かし、急須にお湯を注いでお茶を入れて亭主の役割を果たすことこそがおもてなしであると伝えています。また、幅広くお茶の魅力を伝えたいとの思いから、創業の地・堺で日本茶カフェ 茶寮つぼ市製茶本舗を運営し、抹茶かき氷や茶粥の提供をしています。

つぼ市製茶本舗公式サイトより引用

阪堺電車神明町駅前にある「茶寮 つぼ市製茶本舗 堺本館」

つぼ市製茶本舗公式サイトより引用

古い町家をリノベーションした店内は“市中の山居”がコンセプト

 

つぼ市製茶本舗公式サイトより引用

つぼ市自慢の抹茶をふんだんに使ったスイーツセット

つぼ市製茶本舗公式インスタグラムより引用

切れ味抜群の堺刃物で削った氷は「無重力」と呼ばれるほどふわっと優しい食感。
かき氷のために厳選した一番摘み抹茶を100%使用

織田信長や豊臣秀吉にも仕え、茶会をプロデュースしたといわれている千利休。もっと食事とのペアリングができる場が増えたりすると堺で楽しめるコンテンツが増えるのでは、と提案します。

“映え”より、基本に忠実な和菓子の世界
千利休の時代には、今のような甘い菓子をお茶と一緒にいただく習慣はなかったようですが、砂糖の生産量が増えるとおもてなしの場を華やかにするため、菓子が用いられるようになりました。堺を代表する銘菓のひとつ、くるみ餅は室町時代に売り出されていたといわれていますが、さまざまな和菓子が販売されるようになったのは江戸時代。主食の米を使った「餠もの」に分類されるもの(大福・おはぎ・団子など)が主流でした。
戦後の混乱の中、今の3代目当主の祖母が、和菓子職人だった親戚と協力して作った餅を菅原神社近く(現在の店舗のある場所)で1952年に販売をしたことが始まりという御菓子司「天神餅」。

 阪堺電気軌道「花田口」駅から徒歩3分のところにある御菓子司「天神餅」

創業のきっかけになったお店名物の天神餅は、柔らかい雪平餅に上質の粒餡を詰め込んだシンプルな菓子。時代の変化に合わせて少しずつ甘さの調整をしているという天神餅は今でも一番の人気商品。さまざまな種類の和菓子が生み出されても、古くからある餅ものが根強く好まれるのも和菓子ならではの特徴です。

一口サイズの天神餅は、厳選した国産材料で作る逸品

堺にちなんだ古墳形の「和三盆墳」は優しい甘さでお茶との相性抜群

新しい分野にも挑戦
その一方で、3代目片山真さんが2年前に立ち上げたのは、tenjinmochi+(天神餅プラス)という新たなブランド。「あんこが好きじゃない」と言う子どもたちの声を聞いたことをきっかけに、子どもたちになじみのあるお菓子(パイやプリン、チーズケーキなど)に餡を使った商品を生み出しました。「知らず知らずのうちに餡を食べてもらい、苦手意識をなくしたい」と言います。

tenjinmochi+ブランドの「堺鉄砲パイ」(9月中旬~5月末)はサクサク食感が人気

洋菓子のような見た目で、幅広い年齢層に人気

天神餅の隣にあるtenjinmochi+はカフェのような外観で、金曜・土曜日(11:00~16:00)のみの営業

また、学校などへ積極的に出向き、煉りきりを作る和菓子の体験教室も開いています。
どんな形でもできる特徴を生かし、人気のキャラクターなどを工作感覚で作り、和菓子に親しんでもらう機会としています。

煉りきりの作り方

① 2色の生地と餡を準備

② 一つの生地を平らにし、もう一つを重ね合わせ同じように平らにし、餡を包んで閉じる

③ 形を整えて、花のデザインを入れていきます

④ 完成

モチーフになるのは、植物や動物、自然などさまざま。四季を表現したものが多くあります。機械化が進む中でも一つずつ職人の手作業によって生み出されます。

さかい利晶の杜
千利休を生んだ堺の地で茶の湯を気軽に体験できる利晶の杜
茶室お点前体験(予約制)では、抹茶を点てる体験ができます。もっと気軽に体験したい人には、椅子に座っていただける立礼呈茶(予約不要)も。和菓子は、月替わりで堺の老舗和菓子店が担当。
https://www.sakai-rishonomori.com/