ものの始まりなんでも堺といわれる堺には、その名に恥じない産業が今も根付いています。中でも、線香や注染は独自の方法を生み出し、発展を続けています。物流の拠点として物が集まりやすかったことに加え、切磋琢磨する職人の姿も堺にはあります。
堺は、「ものの始まりなんでも堺」といわれるほど、さまざまな歴史や文化が始まった場所とされていいます。中でも、線香、和晒・注染は、その独自の製法が堺の地で生み出され、今も受け継がれています。「どうすれば、効率よくいいものが作れるだろうか」「品質にはとことんこだわりたい」といった職人たちの切磋琢磨から、時代が変わっても揺るぐことのない製品が脈々と息づいています。
寺院での法要や家庭での仏壇のほか、 香りを楽しむお香も数多くあります
堺で生まれた独自の線香製造
部屋の片隅で静かに香り、はかなく消えていく線香。その香りには、奥ゆかしさや甘さがあり、ふわっと香るだけで、気持ちが落ち着き心も整うような感覚があります。現在、一般的に販売されている線香が誕生したのは、16世紀の堺だったといわれています。当時海外で流通していた線香が、竹軸に香りの成分を付けたものだったのに対し、より長く深い香りを楽しむために独自の製造法を編み出したのです。古くから貿易の拠点となっていた堺では、線香の材料となる香木や漢方などが手に入りやすく、寺院も多かったことから、その生産を伸ばしていきました。そして、第二次世界大戦以前には約70の線香業者が存在するほどの一大産地に。戦火で堺のまちが焼けてしまい、多くの線香職人は淡路島に渡り、線香の生産を続けました。その伝統は、場所が変わってもしっかりと受け継がれ、今では淡路島が国内トップの生産地となっています。
線香は香りの芸術品
線香は、主に7つの段階を経て製品となります。
① 原料を混ぜて粘土状にする
② 円筒状の練り玉にする
③ 練り玉を押出機に入れ、棒状となって出てきたものを盆板で受け、両端を切り落とす
柔らかく吸水性に優れた万能素材
力を入れる箇所が次第に凹んでくる(左)
型紙は、糊をのせたい部分が網目になっており、のりのついていない部分に染料が入っていきます。
染めに使う伊勢型紙は三重県鈴鹿市の伝統的工芸品
何十枚も一気に染め上げるのが注染の特徴で、そのために糊を置いては和晒を折り返すことを繰り返します。糊を置いて、何重にも重なった和晒ができると、色を入れる準備をします。
② 土手引き
違った色が混ざらないよう、エリアを区切っていくのが土手引き。糊で囲うことで、色が広がっていきません。
③ 注ぎ染め
そして、いよいよ染めの工程です。
ドヒンと呼ばれる、じょうろのような道具に染料を入れ、土手を作った和晒に注いでいきます。裏からは吸引を行うことで、均等に染まっていきます。裏側からも同じ作業を行うため、注染には表裏がなくどちらからも鮮やかな色が楽しめるのです。
④ 水洗い・立て干し
最後は、糊を落とすために水で洗い、脱水したら、乾かして完成です。
鮮やかに色づいた長い生地が風に揺れて舞う様子は圧巻!
近年では、注染ならではの風合いを生かした斬新なデザインが人気を集め、タペストリーやテーブルクロスなどインテリアとして楽しむことも増えてきました。「いろいろな使い方をしてもらえるのは喜ばしいこと。でも、やはり和晒ならではの風合いを肌で感じてほしい。使い続けるほどに馴染んでくる感覚はクセになると思う」と、北山染工場の北山社長。地域のまちおこしにも参加し、NPO法人好きやねん津久野の会の副理事も務めています。
津久野エリアを手ぬぐいで表現
そのもとで働く、20代の女性職人さんは、柄の多彩さや鮮やかさに惹かれ、「どうやって作られるんだろう?」という素朴な疑問から、工場にたどり着いたと言う。完全防備で作業を行っているが、「カッコよくてヤバい!」という一言に思いのすべてが表れているよう。「将来は自分で考えたものが形にできるようになれば…」と、キラキラと輝く瞳で語ってくれました。
美しい色合いを生かし、さまざまな雑貨も生み出されています